どうする!? ネットの誹謗中傷、最新事例で知る悲惨さとリスク
「これくらい有名税でしょ」は通用しない! 有名人を誹謗中傷した加害者たちの末路
2021年12月23日 11:55
「有名税」という言葉があります。有名なことによって生じる代償を税金に例えたものですが、SNSでは有名人に対する誹謗中傷を行いながらも「これくらい有名税でしょ」と開き直ってしまう加害者が多くいます。そして、今もあらゆる有名人が多数の誹謗中傷を日常的に受けています。
ネットの匿名性を悪用する誹謗中傷が社会問題になっています。誰もが被害者になりえますし、無意識に加害者になってしまう可能性もあります。この連載では、筆者が所属する「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」が独自に取材した情報を共有し、実際に起こった被害事例について紹介していきます。誹謗中傷のない社会を目指しましょう。
プロバイダ責任制限法の改正で投稿者の速やかな特定へ
2020年、フジテレビ系のリアリティショー番組に出演していた22歳の女性がネットの誹謗中傷に晒され、自殺するという悲劇が起きました。世論でもネットの書き込みはひどい、という流れになりましたが、それでも誹謗中傷はなくなりませんでした。
匿名の立場にいる人たちは「有名人を攻撃することがなぜ悪いのか」という感覚なのです。有名人がYouTubeなどで誹謗中傷をやめるように伝えても、「テレビに出ているんだから仕方がない、我慢しろ」という意見も出るのです。
当然、有名人だとしても誹謗中傷したり脅迫することは違法です。以前は、弁護士も警察もネットの書き込みに対して犯人を特定し、損害賠償を取ったり、逮捕するといったことに慣れていませんでした。被害届を出そうとしても、受理しないといったひどいことも起きていたのです。しかし、今はこうした状況から変わろうとしています。
2020年11月には誹謗中傷を受けた被害者が犯人の身元を特定するために、情報開示請求の対象に電話番号を追加する省令改正を実施しました。これでSNS事業者からもらう情報で犯人にアプローチしやすくなったのです。
2021年4月には、プロバイダ責任制限法の改正が行われました。現行法では、匿名の犯人を見つけるためにはコンテンツプロバイダからIPアドレスを開示してもらい、接続プロバイダからIPアドレス使用者を開示してもらう必要があります。そのため、手続きも時間もコストもかかっていました。改正により、この手続きを一体化できるようになるのです。施行日は2022年9月~10月と予想されています。
この改正では、Twitterのようなログイン型サービスにおける開示請求にも対応するようになります。現行法では投稿時のIPアドレスが必要になるのですが、SNSによってはログイン時のIPアドレスしか持っておらず、法適用できないことがあったのです。改正により、ログイン時のIPアドレスなどの情報も特定発信者情報として開示できるようになります。
このような流れを受けて、今までは被害届を受理しなかった警察の理解も進みました。誹謗中傷を専門とする弁護士も増え、犯人を追い詰める態勢は整いつつあります。
もちろん、来年秋の施行を待つ必要はありません。現行法でも手間とコストはかかりますが、対応は可能です。すでに、多くの芸能人がアクションを起こしています。
勇気を持って声を上げた有名人やタレント事務所
タレントの春名風花さんは2018年にTwitterで「名誉男性」や「彼女の両親自体が失敗作」と誹謗中傷を受けました。そのため、弁護士に依頼し、刑事と民事の両方で訴えを起こしました。
捜査が始まり、家宅捜査と取り調べが始まるという段階で、誹謗中傷した投稿者から連絡があり、慰謝料を払うので示談して欲しいと連絡があったそうです。そこで、投稿者が315万4000円を支払うことで示談が成立しました。
【ご報告】裁判の結果https://t.co/fxuwwsbljr@YouTubeより
— 春名風花💉💉 (@harukazechan)July 19, 2020
元AKB48の川崎希さんも2013年ごろからネットで誹謗中傷されるようになりました。あまりにもひどいので、開示請求を行い、侮辱罪で刑事告訴しました。誹謗中傷を書き込んだ女性2人は書類送検されたのですが、深く反省していたので訴えを取り下げたそうです。
とは言え、ブログでは、今後も自分や家族に対して名誉毀損や侮辱、脅迫などがあれば、法律の手続きに従って対処していく、と宣言していました。
発信者情報開示請求が行われると、まずは誹謗中傷した人にプロバイダから連絡がいきます。許可すると住所や氏名などが伝えられますが、拒否することもできます。その場合は裁判に移行するのですが、多くの場合、連絡があった段階で犯人は震え上がってしまいます。謝り倒してなんとか訴えられたり、賠償金を支払うことを回避しようとするのです。しかし、中には開き直る人もいます。
2019年、タレントの堀ちえみさんを誹謗中傷した50代の主婦が、脅迫の疑いで書類送検されました。この時、テレビ番組が主婦に取材したのですが、まったく反省しておらず、10回程度しか書き込んでいないとか、「死ね」で脅迫になるんですね、などと悪びれる様子はなかったそう。
タレント事務所もこのような状況を鑑みて、断固たる対応を表明するところが増えてきました。2021年10月にはワタナベエンターテインメントの公式サイトで、中川翔子さんがコメントを公開しました。
10月7日、数カ月に渡って「自殺しろ」「硫酸をかけてやる」などと書き込んだ都内に住む20代の男が侮辱と脅迫の疑いで書類送検されました。このことを受け、誹謗中傷自体をなくすために容疑者の特定に踏み切ったそうです。
若槻千夏さんや小倉優子さんなど多数のタレントが在籍するプラチナムプロダクションは、2021年11月22日に「インターネット上における当社所属タレントへの誹謗中傷に対する大切なお願い」として、SNSでの誹謗中傷などに対して、あらゆる法的措置を含めた厳正な対応をすると明言しています。
誹謗中傷の被害を減らすには、まず誹謗中傷してはいけないんだ、ということを広めることが重要です。そして、誹謗中傷すると捕まり、前科が付いたり賠償金が取られることを周知させたいところです。今回紹介したケースのように、勇気を持って声を上げた有名人の方達はとてもポジティブな影響を与えたと思います。
今後は誹謗中傷の書き込みをした人を特定する手続きやコストの負担がさらに軽減されます。「これくらい有名税でしょ」は通用しません。誹謗中傷してはいけない、というのは当たり前の考えを社会に根付かせていきましょう。
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